1943年にレオ・カナー(アメリカの精神科医)が独特の状態像を示す子ども達を「自閉症」として初めて報告した。
その子ども達の多くに知的障害がみられたため、自閉症と知的障害は併存すると考えられていた。
その後、ド・マイヤー(自閉症の予後を研究していた)が社会適応の能力を基に高機能、中機能、低機能と分類した。
高機能群の多くに知的障害がなかったことから高機能自閉症と呼んでいる。
1970年代になるとローナ・ウィング(イギリスの児童精神科医で自閉症研究者)達が知的障害のないアスペルガー症候群も自閉症と本質的には同じと考えるようになった。
そして知的障害を伴うものも伴わないものも含めて自閉症やアスペルガー症候群を「自閉症スペクトラム」として位置づけることを提唱した。
スペクトラムは「連続体」のことで、「同じような特性を持った境界線のない一群の障害」という意味合いがある。
自閉症スペクトラムの診断基準としてウィング達は
①社会性の障害(対人関係の形成が難しい)
②言語コミュニケーションの障害(ことばの発達に遅れがある)
③想像力の障害(想像力や柔軟性が乏しく、変化を嫌う)、
の3つをあげている。これを「三つ組の障害」という。
自閉症やアスペルガー症候群は成長とともに状態像が変化することが多く、診断が難しい場合がある。
現在、アスペルガー症候群の診断基準として一般的に用いられているのはDSM-Ⅳ-TRやICD-10である。
これらに対して三つ組による診断基準は他の障害の併存も認めていることや、発症年齢にも定義がないことなどから臨床的に使いやすく、特に欧州で自閉症を学んだ医師を中心に使用されている。
自閉症とアスペルガー症候群は知的能力や言語コミュニケーション能力が低いレベルから高いレベルまであり、それぞれの間に堺がなく、グラデーションのように連続しているのが自閉症スペクトラムの概念である。
ことばの発達に遅れがあり、最初に報告したレオ・カナーの名を冠して「カナータイプ」という。
人は、自分1人だけでは生きていくことができない。
様々な人や集団と、その時々の状況に応じて適切な対人関係を結んでいくことが求められる。
特に相手の気持ちやその場の状況を察し、同時に自分の言動が相手や周りの人にどのような印象を与えるかを想像することは良好な人間関係を保つ上で重要である。
このような社会に対する意識やかかわり方のことを「社会性」という。
多くの人は成長発達の過程で社会性を自然に学び育んで、社会の中での生き方を身につけていく。
しかし、アスペルガー症候群の人は彼ら特有の特性から、このような社会性を自然に習得することが困難である。
社会性がないと他人の気持ちに配慮したり、その場の雰囲気を読んだりすることができないため、周りの人から敬遠されて浮いた存在になりがちである。
「常識外れの人」「マナーがなっていない」などと思われていたり、本人には悪意がないのに「自分勝手だ」などと批判されたりすることが多い。
同時に本人も「自分は他の人と違うようだ」と孤立感や疎外感を持ったり、「一生懸命やっているのにうまくいかない」と生きにくさを感じたりしていることが多い。
子どものうちなら社会性がなくても大目に見られることがある。
アスペルガー症候群の人は一般的に知能が高く、学校の成績もよいことが多いため、色々な問題を抱えながらも大きなトラブルになることはあまりない。
しかし、高校や大学を卒業し、社会人になる頃になると社会性のなさから人とトラブルを起こすような事態が多くなってくる。
「仕事が覚えられない」「1つのことにこだわって仕事が先に進まない」「一生懸命に仕事をしているのにうまくいかない」「悪意がないのに周りの人を怒らせてしまう」などの問題も社会性のなさが原因になっていることがある。
①その場の空気を読むことができない。暗黙のルールが分からない。
②TPOに合った服装や、ことば遣いができない。
③自分の言動で相手がどう思うかを想像できないため、思ったことをそのまま口にする。
④相手と自分の距離感に無頓着で、近すぎる距離で話したり、顔を背けて話をしたりする。
⑤相手が示す表情やしぐさから喜んでいるのか、不快に思っているかなどを推察することができない。
⑥目上の人にも馴れ馴れしく話しかけたり、親しい間柄の人にも他人行儀な話し方をしたりする。
1歳前後で単語を口に出して言うようになり、2歳前後で二語文(「パパ、かいしゃ」など)を話し出すのが標準的なことばの発達である。
しかし、自閉症の場合は2歳になっても単語が出てこない、3歳になっても二語文を話せないなど、ことばの発達の遅れがみられる。
そのため、乳幼児健診時や、心配した親が医療機関に相談することによって自閉症だと分かるケースが多い。
それに対してアスペルガー症候群では、話し出すのは遅くても話し始めると普通ということが多く、人一倍おしゃべりな子どもや、小さい頃から難しいことばを知っている子どももいる。
ところが質問されたことに対してとんちんかんなことを答えたりして会話が噛み合わないことが多い。
成長するに従い、「こういう時はこう答えた方がいい」「皆が笑う時は一緒に笑った方がいい」といったことを知識として覚え、「変わった人」と見られないための方法を身につけることも可能であるが、会話が成立しにくいという特性は一生変わらない。
一般的にアスペルガー症候群の人は人の話を聞くことが苦手である。
特にガヤガヤと騒々しい所では、すべての音が耳に入ってきてしまうため、集中できない。
質問されたことに的外れな返答をしたりして、人の話をちゃんと聞いていないようにみえるのは、そのような聴覚認知の困難も関係している。
また、ことばを字義通りに受け取る傾向がある。
アスペルガー症候群の人は言外に含まれている意味や微妙なニュアンスを読み取ることが苦手なため、電話などでその人がそばにいても「います」と応えるだけで、取り次ごうとしないことがある。
慣用句や冗談、皮肉、お世辞なども通じないことが多い。
ただし、丁寧な説明を受ければ、きちんと理解できる。
①相手に合わせてことばや話し方を使い分けることができない。
②相手にお構いなしに、自分だけが一方的に話す。
③説明が必要以上に細かく、回りくどい。
④質問に対し、見当違いの答えを返す。
⑤相手の話を聞いて理解するのが苦手。
⑥ことばを字義通りに受け取り、冗談や皮肉、慣用句、たとえ話などが理解できない。
⑦自分の気持ちや状況を伝えることが苦手。
⑧騒がしい場所では会話に集中できない。
アスペルガー症候群の人は物事の手順、配置場所、1日のスケジュール、規則などに強くこだわる傾向がある。
アスペルガー症候群の人にとって一度決まったことは絶対的ともいえるもので、変更や中止の可能性があるということには考え方が及ばない。
そのため、本人の知らない内に家具の置き方が変わっていたり、予定が突然変更されたりすると強い不安感に襲われ、時にはパニック状態になる。
これは物事の流れを把握したり、これからどうなるかといったことを想像したりするのが困難であるから、予定外のことに対して柔軟に対応することがなかなかできない。
また、気持ちの切り替えや発想の転換なども苦手であるため、周りの人からは「融通が利かない」「頑固」「わがまま」などと思われがちである。しかし、それは本人にとってわがままでも何でもなく、改めようのないことである。
社会に出るとスケジュールの変更は日常茶飯事になり、柔軟に、機敏に対応することが求められる。
アスペルガー症候群の人の多くは、そのような対応が弱いため、学生時代はそれほど目立たなかった困難が社会人になって一気に表面化することが多い。
こだわりの強さは他にも様々な面に現われる。
アスペルガー症候群の人は、自分の興味のあることには何時間でも熱心に取り組むことができる。
声をかけても全く耳に入らないほどの集中力を持っていて、子どもの時から専門家並みの深くて豊かな知識を持っていることが多い。
ただ、その知識を使って何かをするという応用力は、あまりない。
また、自分が好きなことには熱心な一方、興味や関心が持てないことは極端におろそかになりがちである。
というよりも目に入らないのである。
興味や関心が狭く偏っているため、一般的な知識や常識を身につけていないことがある。
1つのことにしか注意が向かないため、同時に2つ以上のことをこなすことが苦手である。
①物事が予定通り進まないと、どうしたらよいか分からなくなる
②好きなことをやっている時は声をかけられても気付かない
③物の配置が変わると落ち着かない
④興味がないことには、ほとんど関心を示さない
⑤生活パターンや習慣、規則にかたくなに守りたがる
⑥物事を決めつけて考えやすく、気持ちの切り替えが下手
人間には目・耳・鼻・舌・皮膚などの感覚器があり、これらを通して多くの情報が入ってくる。
そのうち自分に関係のない情報は無意識のうちに切り捨て、大切な情報だけをキャッチしようとする。
これを選択的注意という。
しかし、アスペルガー症候群の人は、この選択的注意が苦手なことが多い。
音の選択ができにくいアスペルガー症候群の人は雑音にしても話し声にしても1つの音の塊となって入ってくるため、相手の話していることを理解することができない。
敏感すぎて選択的注意ができにくいのは聴覚だけの問題ではなく視覚、嗅覚、味覚、触覚などでも同様である。
視覚が敏感すぎれば周囲の物がちらついて1つの物を集中して見ることができなくなる。
触覚が敏感すぎれば肌触りの優しい絹製品しか着られないということも生じる。
逆に感覚が鈍い場合もある。
傷や虫歯の痛み、暑さ・寒さを感じない人や、人が嫌がる音が全く平気という人がいる。
自閉スペクトラム症には、自閉性障害、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害の3つが含まれています。
ただ、これらの障害のうち厳密にどれに該当するのかを診断することは難しいため、1つのスペクトラム(連続体)として捉えることになっています。
DSM-5では、その診断基準として大きく2つの項目を挙げています。
1つ目は「社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的な障害」があること、2つ目は「限定された反復的な行動や興味、活動がみられる」ということです。
補足として、知覚過敏や知覚鈍磨といった知覚異常があること、幼児期の発症に限らないことなども付け加えられています。
こうした症状が認められ、社会生活や職業上で重大な障害を引き起こしている場合に自閉スペクトラム症と診断されます。
座って先生の話を聞くことができなかったり、勉強や遊びに取り組んでもすぐに飽きてしまい、別のことを始めてしまったりする子、こうした子どもは、クラスの中でも1人や2人くらいはいるといわれています。
これは、親のしつけや本人の性格の問題ではないことが多く、脳の機能異常によって起こる発達障害の一つでADHD(注意欠如/多動症)といわれています。
12歳未満に発症し、不注意、多動・衝動性の2つの症状が特徴的です。
ADHDがあると勉強にじっくり取り組むことができず、成績は下がる一方です。そして、本人も自身を失くしてしまいがちです。
周囲の大人が障害の特性をよく理解した上で対応していく必要があります。
なお、多動に関しては10歳頃から症状が落ち着いてきますが、薬物療法が効果的だといわれています。
進学や就職、転勤、結婚など、人生の新たな一歩を踏み出すときには、環境の変化が伴うものです。
環境の変化は大きなストレスにもなりますが、多くの場合は最初は緊張しながらも、しだいに新しい環境に適応していきます。
しかし、中には新しい環境に適応できないケースもあります。
「早く慣れなければいけない」と頭では理解していながらも、感情的には「ここから逃げてしまいたい、どうしても馴染めない」という相反する状態に陥ってしまうのです。
すると、抑うつ症状や不安感が現れたり、普段とは違う行動をとったりすることがあります。これが、適応障害です。
明確なストレスの原因から3ヶ月以内に症状が現れ、日常生活に支障を来たしている場合に診断されます。一般に几帳面で真面目、ストレスへの適応能力が弱い人がかかりやすいといわれています。
うつ病の基本症状は、「気分が落ち込む、気がめいる、もの悲しい」といった「抑うつ気分」です。
また、あらゆることへの関心や興味がなくなり、何をするにも億劫になります。
知的活動能力が減退し、家事や仕事、勉強も進まなくなります。
抑うつ気分が強くなると、死にたいと考えたり(自殺念慮)、自殺を図ったり(自殺企図)します。自殺率はおよそ15%と高く、注意が必要です。
さらに「睡眠障害、全身のだるさ、食欲不振、頭痛」などといった身体症状も現れます。
うつ病の生涯有病率は3~7%で、女性の方が男性よりもかかりやすいことが分かっています。
年代別では、10代後半から壮年期にもっとも多くみられますが、老年期にもみられます。
私たちは毎日、さまざまなストレスに対して、体を働きを変化させることで適応しています。
たとえば、暑い場所にいて体温が上がると、汗をかいて体温を一定に保とうとします。
このような体の仕組みを「ホメオステイシス(恒常性)」といい、主に神経系、免疫系、内分泌系の3つが働いています。
しかし、非常に強いストレスがかかったり、長い間ストレスにさらされたりすると、神経系や免疫系、内分泌系のバランスが崩れて、体に器質的または機能的な障害が起こることがあります。
これが心身症です。
医学的な疾患名ではありませんが、身体疾患の中でその発症やストレスに大きく関わっている病態を指します。
心身症として分類される身体疾患は、偏頭痛やじんましん、気管支ぜんそく、過敏性腸症候群など、多岐に渡ります。
統合失調症の症状は多岐に渡りますが、「陽性症状」と「陰性症状」の2つに大別できます。
主に初期(急性期)に現れるのが「陽性症状」で、幻覚や妄想、思考障害などがあります。
中でも特徴的なものが妄想です。
「世界が破滅する」などの不気味な予感を抱いたり、ふと気になったものに対して、周囲の人が理解不能な意味付けをおこなったりします。
さらに「ずと監視されている」「自分の命が狙われている」などの被害妄想がよくみられます。
一方、陰性症状は主に慢性期に現れるもので、感情の平板化、意欲の低下、自閉などがあります。
なお、統合失調症の発症前には、前駆症状が現れるケースもあります。
たとえば、不安や緊張、性格の変化、不眠、倦怠感などが報告されています。
披露宴でスピーチをする、会議で発表するなど、人前で何かをしなければならない機会はよくあると思います。
こうした場面で極度に緊張し、「失敗するのではないか」と強く不安を抱くものを「社交不安症」といいます。
社交不安症は、顔が赤くなったり、声がふるえたり、動機、発汗、吐き気、めまいなどが現れます。
かつて社交不安症は、人目を気にする日本人特有のものと考えられていました。しかし、現在では、アメリカなど世界的に広く見られるものだということが分かっています。
ただ、明確な自己主張が求められるアメリカ社会と、適度な自己主張とともに相手への気遣いが求められる日本社会では文化的背景が異なり、それが、発症の仕方や病態に影響しているのではないかとの指摘もあります。